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東京家庭裁判所 昭和52年(少イ)5号 決定

少年 D・R(昭三三・一・一生)

主文

1  少年を特別少年院に送致する。

2  本件戻し収容申請を却下する。

理由

1  罪となるべき事実

少年は、

(1)  中学校の後輩であるA(当一六歳)から金員を喝取しようと企て、昭和五二年三月二五日午前一一時三〇分ころ、東京都渋谷区○○×丁目××番×号美容室「○○○○・○○○○○」前路上において、右Aに対し、「俺がここでパーマをかけるから、五、〇〇〇円のパーマ代を都合しろ」などと申し向けて金員を要求し、もしこれに応じなければ同人に対していかなる危害をも加えかねない態度を示して金員を喝取しようとしたが、同人がこれに応じなかつたため、その目的を遂げなかつた。

(2)  同日午後一時三〇分ころ、同美容室の店員BからC所有の自転車一台(時価約二万円相当)を借り受けて右Bのため保管中、同月二八日ころ、ほしいままにこれを東京都新宿区○○○×丁目×番地付近の路上に乗り捨て、もつて横領したものである。

2  上記事実に適用すべき法令

(1)  の事実につき、刑法二五〇条、二四九条一項

(2)  の事実につき、刑法二五二条一項

3  主文1記載の保護処分に付する事由

少年の知能、性格、家庭環境、生育歴、非行歴等は少年調査票、東京少年鑑別所の鑑別結果通知書その他一件記録記載のとおりであり、これら本件調査審判に現れた一切の事情、特に、

(1)  少年は、昭和五〇年九月一七日、当庁において、詐欺保護事件(昭和五〇年少第一〇一四三号)により中等少年院送致の決定を受け、同月二二日多摩少年院に収容されたが、在院中の成績は事故や反則はなかつたものの、慣れるにしたがつて意欲のない、いいかげんな生活態度が目立ち、そのため、仮退院申請が三度保留されるなど必ずしも良好とはいえず、自己の欠点を深刻に受けとめて、内省を深めるまでには至つていなかつたこと、

(2)  昭和五二年二月一日仮退院を許可され、東京保護観察所の保護観察の下、同月三日から○○○○運輸有限会社に運転助手として住込稼働したが、程なくして無断欠勤を繰り返し、就業先の所長から借金を重ねてパチンコ等の遊興に耽り、三月一日には無断で寮を飛び出すに至つた。同月三日所持金を使いはたして担当保護司の下を訪れ、同保護司の説得により一旦は職場に復帰したものの、同月八日には再び勤務先を出奔し、以後四月四日代々木警察署員に補導されるまでの間、素行不良者のDや暴力団○○○○組員Eの許に身を寄せ、新宿等で無為徒食の生活を送り、その間前叙非行を敢行したほか、パーマ代や診療代、借金を踏み倒すなどの社会不適応行動を重ねたこと(このため、昭和五二年四月一四日関東地方更生保護委員会から戻し収容の申請がなされた。)、

(3)  同月二七日、当庁において、前記非行により試験観察・補導委託(○○○○)決定を受けたにもかかわらず、翌二八日早朝委託先を飛び出して再び新宿に舞戻り、深夜喫茶店等を転々として徒遊の生活を続けたが、六月一八日、実母方を訪れ、同月二三日同人の紹介で喫茶店「○○○○」に就職して小康を得たが、七月八日には同店から三万円を窃取して実母方を出奔、再び新宿に戻つて、昼はゲームセンター、夜は深夜喫茶店で徒遊し、同月一二日実母の知人方に立ち寄つたところを保護されるに至つたこと、

(4)  少年の性格はなげやりで依存欲求が強い反面、自分本位な判断の枠組が固定化しているため、周囲の状況に対して不平不満を持ちやすく、困難な場面に直面した場合に自分自身の問題点に目を向けて内省を深め、地道に問題解決をはかろうとする意欲や姿勢に乏しく、遊興的なものに対する価値観の偏りは相当大きいものと認められること、

(5)  保護環境について見るに、継母は少年の再非行に拒否的反応が強く、少年の引取りを固辞しているうえ、少年自身にも反感が強いこと、他方実母においても少年とは一〇数年の隔絶があるうえ、少年の背信的行為に防禦的姿勢が強いため、その保護に期待することは実際上不可能であること、

に鑑みれば、少年に対しては、施設に収容して勤労意欲を喚起し、持続力を養い、積極的、主体的に人生に係わつていく姿勢を身につけることを通して性格の矯正を図ることが、その健全な育成のために急務であると考える。よつて、少年の年齢や仮退院後の行状に見られる犯罪的傾向の昂進等を考慮して、少年を特別少年院に送致することとする。

4  戻し収容申請却下の理由

戻し収容申請事件と一般保護事件とが競合した場合の取扱い如何については種々の議論の存するところであるが、当裁判所は、戻し収容申請事件は実質的には従前の保護処分の継続又は変更であり、非行事実及び要保護性の有無を審理して保護処分の要否を判断する一般保護事件とはその本質を異にし、機能的にも一般保護事件のそれを拡張(二〇歳を越える場合)又は補充(二〇歳未満のものの場合)する地位を占めるものと解する。しかしながら、手続的には、申請によつて事件が家庭裁判所に係属し、その審理に当たつては、その性質に反しない限り、少年の保護事件の例による(少年審判規則五五条)こととされ、その審判の対象は従前の保護処分の継続又は変更を支持するに足りる要保護性の有無であるから、この点において両事件が重なり合う面を有することはこれを否定しがたいところであり、審理経済の観点からは、両者を併合して審理することが合理的といえよう。そして併合審理の可否という側面に限つて議論を展開する限りにおいては、両事件の性質の異同よりは、むしろ併合審理の実益があるか否かで結論を導出することが合目的的であると考えられるから、当裁判所は併合して審理することとした。次に、両事件を併合した場合の処理については、当裁判所としては両事件の現行少年法体系における位置づけ、機能に照らし、両事件が競合する場合にはやはり原則に帰つて一般保護事件を優先するのが相当と考える(両事件の競合は二〇歳未満のものについて問題とされるわけであるが、戻し収容申請が認容されるケースではほとんどの場合に一般保護事件による保護処分相当性が肯認されよう。そうだとするならば、特に犯罪少年の場合には、本人の納得、一事不再理効付与の点からも、一般保護事件による処理が妥当なのではなかろうか。)から、一般保護事件により処理することとし、戻し収容申請事件はその目的を達したものとして、その申請を却下した(この場合、両事件を併合している関係上、併合理論からは主文は一個となるべきであろうが、やはり両事件がその本質を異にし、一つに合体しない以上、主文は各別に出すのが相当と考える。)。

5  結論

以上のとおりであるから、一般保護事件により少年を特別少年院に送致し、本件戻し収容申請は、これを却下することとし、少年法二四条一項三号、犯罪者予防更生法四三条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 高柳輝雄)

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